確か新卒でIT業界へ入社して1年目のことだったと思う。
「最近は、皆なんでもITだと騒いでるが、皆ちょっと思い違いをしている。ITはあくまでも手段。日本のメインはモノづくりなんだから勘違いしたらいかん。皆がほしいのはモノなんだから、ITはモノづくりを支えとけばいいんだ」
自動車部品の工場長をやっていた親戚のおじさんからこんなことを言われた。
もう20年近く前のことで言葉尻ははっきりと覚えていないが、確かそんな内容だったと思う。
当時、就職したばかりでITに未来を感じて働きはじめていた自分としては、故郷に帰ってこんな風に言われて肩身が狭く感じたものだった。他の親戚にも「どんな仕事をしているのか?」と聞かれてコンピュータで動かすプログラムを設計して書いているとか言っても全然伝わらなかった。親戚は、トヨタ関係の製造業や医者や学校の先生などの職業の人達が多かったのだけれどITについてよく分からないし、興味もない感じだった。
当時はそんな理由で、親戚と仕事の話をするのが面倒で嫌だったんだけれど、今となっては、そんなことはどうでも良い。ただ当時「皆が欲しているもの」を考えた時、多くの人が「モノ」を欲しがっていると思っていたことだ。
まだ「ドリルを売るには穴を売れ」なんて本も出てなかったし、UX(ユーザ体験)なんて言葉も知らなかった。何より自分もモノ(車)が好きで、安く購入できるスポーツタイプの車(シルビアとかMR2)乗ってたな。
時が流れてもITが手段ということに変わりはないけれど、商売するために必要不可欠なものになっていった。この流れは長沢さんの資料「ビジネスとITの図」が分かりやすい。
最近ではUX(ユーザ体験)っていう言葉は一般的に使われていて、ユーザが欲しているのは(当時から既に)モノではなかったんじゃないかなと思う。例えば「冷蔵庫」というモノがなくても、食品や飲み物を冷やせれば別に冷蔵庫なんて要らないし、見たい映像が見れれば「テレビ」だって要らない。
確かに、かつて圧倒的にモノ不足だった時代があった訳で、モノという分かりやすいモノサシをつかってモノを所有することで満足感を得ていた時代があったということも理解できる。だけど、本質的にモノはモノであって、結局何かの目的のために存在している訳なので、その目的を満たせればモノは無くたっていい(はず)。かつてスターバックス創業者ハワード・シュルツが「スターバックスはコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのだ。」と言ったのはけっこう有名な話。確かにスタバのコーヒーはそんなに美味しいと思ったことない(個人の感想です)。あの(Macbook広げたり参考書開いたりするリア充な)雰囲気を売ってるんだもんな。
これからDX(デジタルトランスフォーメーション)という名のもとに、ますますIT化が進むことになると思うけど、ITで飯を喰っている身としては、言われたものを淡々とつくっているだけでは死亡フラグが立つと思うので、今やっていること、今つくっているものがどんな体験や付加価値を提供できるのか?ということを考え抜いて行く必要があると思っている。
最後に、なんでこんなこと書いたかというと、当時は多くの人が当たり前だと思っていたことっていうのが、今では当たり前ではなくなっているにもかかわらず、残念ながらそれに囚われてしまっていることが多々あるように思う。ので自戒の意味で今年最初の記事を書いてみた。当時の親戚のおじさんから言われたことは、たぶん当時は半分は正解だったんだけど、残りの半分の本質的なところに長らく自分も気づけなかった(今も怪しいもんだ)。
そんな訳で、今年もよろしくお願いいたします。