Agile Studioさんから書籍「アジャイル開発と法務」をプレゼントしていただきました。
はじめに
アジャイル開発を実践する上で、契約は悩ましい問題のひとつだと思います。
本書はIPAモデル契約策定に携わった弁護士(梅本氏)が書かれた書籍で昨年2022年11月に発売されたものです。2023年1月30日(月)に開催されたAgile Studioさんのウェビナーに参加したら幸運にも献本いただけました。ありがとうございます🙇
本の構成
本の構成は、下記のような章立てになっています。
<構成>
■第1章 アジャイル開発の紹介(P.1~30:30頁)
第1 アジャイル開発の概要
第2 アジャイル開発とウォーターフォール開発との比較
第3 プロトタイピング開発、スパイラル開発との比較
第4 アジャイル開発(スクラム)の進め方
第5 アジャイル開発を成功させるためのポイント
■第2章 法務的観点から見たアジャイル開発(P.31~38:8頁)
第1 アジャイル開発に関係する法律
第2 アジャイル開発の外部委託
■第3章 アジャイル開発と契約(P.39~98:60頁)
第1 公表されているモデル契約
第2 アジャイル開発の外部委託契約において検討すべき問題
第3 アジャイル開発に関する裁判例
■第4章 アジャイル開発と偽装請負(P.99~130:32頁)
第1 いわゆる偽装請負とそのペナルティ
第2 厚生労働省の派遣・請負区分基準
第3 アジャイル開発向けの疑義応答集第3集
■第5章 IPAモデル契約(2020年3月公表)の活用(P.131~185:55頁)
第1 IPAモデル契約の活用方法
第2 IPAモデル契約をカスタマイズする際のの注意点
第3 IPAモデル契約の変更例
第4 IPAモデル契約の別紙のカスタマイズ
第3章(60頁)、第5章(55頁)の内容が厚くなっており本書が取り扱うメインテーマについて語られている。特に第3章「第3 アジャイル開発に関する裁判例」では、実際の裁判例が掲載されており個人的にはここが一番面白かった(※注:興味深い、という意味です。詳細は後述)です。また、第5章では、2020年版IPAアジャイル開発モデル契約を参考に、契約のカスタマイズ例や注意点について解説されており、今後の契約を見直す際の参考になりそうでした。
印象に残った点
一番印象に残ったのは(アジャイル開発に関する?)裁判例でした。裁判例を読みながら、裁判に至るまでPM含めたステークホルダーの人々は一体何をしていたのだろう、とか「いや、そうはならんやろ!」→「なっとるやろがい!」が頭の中でグルグルとループしました😅。文章化されない背景には、止むに止まれぬ事情(あんなことやこんなこと)があったのだとは思いますが、それを窺い知ることまではできませんでした。
第3章「第3 アジャイル開発に関する裁判例」
【裁判例1】東京地判平成24年5月30日ウエストロー・ジャパン2012WLJPCA05308009
ベンダが、アジャイル開発であるためドキュメントを作成していないと主張したのに対し、裁判所は、アジャイル開発であってもシステム保守のためには最低限のドキュメントの作成は必要なはずと判断した事例
【裁判例2】東京地判平成26年9月10日ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA09108013
ベンダが、アジャイル開発であるためドキュメントは作成されないと主張したのに対し、裁判所は、アジャイル開発でもテスト結果を記録した書面やユーザ側の確認をとった記録はあるはずと判断した事例
【裁判例3】東京地判平成30年2月27日ウエストロー・ジャパン2018WLJPCA02278037
ベンダが成果報酬型収益配分モデルでアジャイル開発を行ったものの、開発が途中で頓挫したため、それまで稼働した分について報酬請求をしたが、裁判所は請求を認めなかった事例
【裁判例4】東京地判令和2年9月24日ウエストロー・ジャパン2020WLJPCA09248012
ベンダが期限までにシステム開発を完了しないまま報酬を請求し、完成義務を負っていたか否かが問題となったが、裁判所は契約に至る経緯と契約書の内容から準委任契約と認定し、報酬請求を認めた(また、ベンダの善管注意義務違反も認定し、ユーザによる損害賠償請求も同時に認めた)
【裁判例5】東京地判平成29年11月21日ウエストロー・ジャパン2017WLJPCA11218019
ベンダが完成すべき成果物の内容が争われたが、裁判所は、当初作成された設計書ではなく別途ユーザの指示する仕様に従って成果物を完成させることが合意されていたとのベンダの主張を認め、完成を認めた事例
【裁判例6】東京地判令和3年9月30日ウエストロー・ジャパン2021WLJPCA09308022
ベンダがウェブサイトへの機能追加を請け負ったが、既存のウェブサイトと異なる開発言語を使って開発を行ったことが債務不履行とされ損害賠償責任が認められた事例
【裁判例7】東京地判令和3年11月25日ウエストロー・ジャパン2021WLJPCA11258010
契約において業務対価が固定されている場合には、ユーザが希望する仕様をベンダに伝えたとしても、その指定がそのまま仕様として確定するわけではない理解を前提に、開発が頓挫した原因は、ユーザが(業務対価に応じた内容に)要求事項を絞り込まず仕様を確定させなかったことにあると判断された事例
おわりに
不幸にもアジャイル開発の間違った解釈(※但し、答えはひとつではない)のせいで生じた訴訟や裁判エピソードのおかげで、アジャイル開発自体が悪者になってしまっているとしたらとても悲しいことです。既に起きてしまったことにタラレバは無意味かもしれませんが、裁判例に記載されたような体たらくであることを考えると、開発手法には関係なく訴訟が起きていたんじゃなかろうか、と思ってしまいました。
但し、このような問題を他人事と考えてはいけないと思います。これまで出会したことがなかったとしても、この先、場合によっては自分が引き起こしたり、誰かに巻き込まれたり、誰かを巻き込んでしまったりすることも十分あり得ると考えるべきでしょう。そうならないよう普段から十二分に配慮しつつ、そうなった場合に対して備えておくことが重要だと思います。
おまけ
手前味噌ですが、以前(もうだいぶ前だな)若手SE向けに契約周りの基本の基(キホンノキ)をまとめたスライドを公開してたことを思い出したんで記事のリンク貼っときます。
SEのための契約知識【超】入門 - 機雷がなんだ! 全速前進!