10年近く前に書かれた本ですが、それほど古さを感じない内容でした。この本が本質を突いているということもあるんだろうけど、日本のIT活用や業界構造の課題がこの10年間それほど変わっていないってことなのかもしれない。アジャイル開発やレガシーオフショア(主に中国に対する)による失敗などについても言及されており、なかなか共感できる点も多かった。
この本で語られている「百年アーキテクチャ」のコンセプトは、ビジネス(業務)とそれを支える情報システム(IT)をモデルの形で整理しておき、ビジネスを変更した際に、遅れなく情報システムも変化修整(※「修正」でなく)できるようにする、というものだそうだ。
この本の全体を通じて、下記に示す4つのアーキテクチャ成熟度ステージ(MIT Sloan)を前提にして様々なことが語られており、このステージ間の移行には、技術、プロセス、そして何よりも社員の文化が深く影響するんだとか。各ステージに見合った戦略をとらないとうまくいかない、ってのは確かに。あまり体系的に考えたことなかったのでこの観点は参考になる。
- ステージ1.Business Silos:個別IT(サイロ型システム)
個々の利用部門のビジネスニーズやシステムへの要求を最大限満たすことに注力
- ステージ2.Standardized Technology:標準化でコストダウン(IT標準化)
技術の標準化や集中化を通じてITの効率化を追求
- ステージ3.Optimized Core:企業全体視点(ビジネス最適化)
企業のビジネスモデルに応じて、全社視点からのコア業務とコアデータの標準化を進める
- ステージ4.Business Modularity:戦略視点(ビジネスモジュール化)
疎結合状態でサービス化されたビジネスプロセスコンポーネントを再利用して、コア部分はグローバル標準を担保しつつローカルの自由度を許している
この本の中で紹介されているシステム・ダイナミックス(SD)モデルによるステージアップのシナリオでは、1つのステージに必要な期間を5年として、4つのステージを20年かけて上がっていくと説明されているのだが、これではいくらなんでも遅すぎるように思えた。ただ、百年アーキテクチャ、って言ってるので、本気で100年を前提にするなら、その1/5の20年をかけるってのは、妥当ってことなのか。ケース・バイ・ケースなんでしょうけど、この時間感覚にはちょっと共感できなかった。
ビジネスにおいて企業のIT戦略が重要な地位を占めるようになっていく(※現在は、もう既になっていると思うけど)ので、企業のIT部門(情シス?)も成長していく必要がある。というのは、ずっと言われていることですね。今後は、今以上にビジネスにスピートが求められてくるとなると、多重請負構造による丸投げ開発っていう伝家の宝刀は、今までみたいには使えなくなりますね。
下記の図は、この書籍(P.133)でも紹介されている情報サービス産業協会(JISA)が2009年5月に今後5~10年間の業界構造変化についてまとめたもの(つまり10年前の資料)です。既に10年が経過していますが、まだ展望のようにはなってないかもしれません。しかし、これからベンダが生き残っていくためには右側(展望)で飯食えるようになっていかないと淘汰されるんでしょうね。
巷では、DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)とかって言われてますし、最近の採用の動向を見てみても、IT企業じゃない企業(製造業や量販店など)のIT部門強化と思われる中途採用の求人も非常に多いので「全ての企業が“IT企業”に」っていう時代になりつつあるのを感じます。